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ムーヴィーズ・フロム・マース呑気な映画、テレビ系ぼやきサイト

気狂いピエロ pierrot le fou
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フランス版、いやゴダール版「明日に向かって撃て」的趣きがほんの少々ある欲求不満の若者のを主人公にしてその心の変遷を描いたロード・ムーヴィー風映画だ。時折織り込まれるイメージ・ショットがいまだに新鮮味を失わずに普遍性をもったテーマが心を捉えて放さない。ジャン・ポール・ベルモントの存在感が圧倒的に凄くこの映画の印象をより深いものにしている。間違いなくゴダールの最高作の一本にはいる作品だ。この作品はジャン・リュック・ゴダールの10作目の映画になる。ヌーヴェル・バーグといわれた映画の新しい波(当時の)の代表作家としての足元を完全に固めた作品といってよいであろう。この作品は現代におけるコマーシャル・フィルムの基礎ともいえる部分があり、言葉の羅列とそしてそれに続く物語の流れがいつまでたっても色あせずに残っているのはそのせいなのかもしれない。そのぐらい完成度が高く映画全体のセンスの高さは物凄いものがある。ストーリーとしてはパリでの生活に飽きた若者が再会した昔の恋人と一緒に犯罪に巻き込まれ、かつ犯罪をおかしつつ衝撃のラスト、主人公の死に進む一種のロード・ムーヴィーだ。南仏の海や自然の美しさとピエロが自己を喪失しながらも恋人の死とともに訪れる自分の死。その瞬間に気がつく自分の夢の追求の中の出来事と本当の現実との違い。死を迎えて気がつく現実の自分。自己の覚醒の瞬間が死であるという不条理。延々と続くかのようなロード・ムーヴィーがいきなり終わりを告げる唐突の死に向かう様を描いたものだ。この映画の最も印象に残る部分は、時々差し込まれる写真やアートの美しさであるのかもしれない。このインサートの瞬間を最高の局面で行い、かつその選んだアートがその生命を保ち続けているところにゴダールの感性の凄さがある。しかしゴダールの映画によくある唐突な死は人生そのものが夢であるような気にさせられるのである。ブライアン・キーツの詩の持つ意味と同一のものを感じさせる映画だ。ゴダール流の青春映画といったところか。しかしジャン・ポール・ベルモントはいくつの時の映画であってもひたすらかっこいい。現在の米国映画偏重のためフランス映画の廉価化はなかなか進まない。優れた欧州映画の積極的再発を望みたいところだ。

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